時は19世紀後半。帝政ロシアも大改革の時代を迎えている。語り手である貴族は嫉妬から妻を殺した。ありふれた話だ。だが主人公が妻殺害に至る理由の分析は普通でない。原因は結婚制度自体にあるというのだ。女性が男性の従属物であることを正当化するのが結婚という制度という主張は半世紀前ならあまりにも道義的な主張に思え、時代遅れにも見えただろう。しかし時代が作品に追いついてきた。女性が経済力をつけて自立できるようになったのだ。にもかかわらず、一夫一妻性は維持されている。男女平等がリアリティを持つ時代ならともかく、全く非現実的な時代(女性は政治的にも経済的にも無権利だった)に婚姻制度の本質を見通すトルストイの洞察力に驚嘆。
古い小説ですし、そんなに長くもありませんが、圧倒される読後感でした。
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このページの情報は 2006年12月25日16時43分 時点のものです。 |