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小説はあまり読まないのですが、このシリーズが出始めてからぽつぽつ読んでいます。
そして私は表現力貧困なうえ、卑近なものに引き寄せて理解する癖があるのです。そんな私がこの『初恋』を読むと、なんだかこのタッチは昔読んだことがあるぞ、と。
高橋留美子の『めぞん一刻』そっくりじゃん??
ひ弱な男である主人公、年上の女性、姿の見えない恋敵。共通するのはこれだけですが、これだけ似てりゃ十分だ。そうか、この構造は昔からあって、すごく強いものなんだ。だからあの漫画はあんなにも面白かったんだ。
そして、この作品も面白かったのです。ロシアの風景が湿潤でリリカルなのにもうっとりしました。アンドレイ・コンチャロフスキーの映画「マリアの恋人」を思い出しました。ロシアの小説、いいなあ。新しいなあ。
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主人公ウラジーミル・ペトローヴィチは、ジナイーダの逢引相手を殺すよう「唆さ」れ、
ナイフを手にします(121ページ)。
ナイフを「男性器」と見なすとすれば、ウラジーミルは大人の「男性」になろうとしていたことが分かります。
しかし、ジナイーダの逢引相手が自分の「父」であると知ると、
ナイフを手から落とし、逃げ出します。
このように、若人ウラジーミルが大人の世界の現実の前に衝突し、そして悩みながら
内面的に成長していきます。
彼の成長は沼野女史の新訳によってみずみずしさを帯びていると思います。
さて、トゥルゲーネフは『初恋』で農奴制などロシアが抱える問題を随所に盛り込ませている、
と沼野女史は指摘しています。
一方で、「唆す」や「父親」などロシア文学においてよく見られ、
かつとても重要な問題がある、と私は加えておきます。
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新訳をつけるのはツライ仕事かもしれません。それはある意味で過去の完成品に反抗する行為に往々にしてなりうるからです。しかし、オリジナルは古びず、日本語だけが古びる。こういった事情が、こうした若い翻訳家による新訳を必要とするのだと思います。いろいろな人のツルゲーネフの翻訳を読みましたが、それぞれに個性のある味のあるいい翻訳がありました。米川訳、神西訳、そしてバーリン訳、ガーネット訳などいろいろです。この新しい沼野訳も訳者の個性のあらわれた繊細で少し感傷的ともいえるやさしい気品のある翻訳に仕上がっています。
ちいさなツルゲーネフの短編。そこに刻み込まれた愛と憎しみ。青春と挫折。老いと諦観。女の愛の真実とは?静かな筆致で熱い情熱を見事に描ききった十九世紀ロシア作家の珠玉の一品です。