谷崎潤一郎が著書「陰影礼賛」の中で語っている闇の美しさがここにある。明治・文明開化前の日本では闇夜を照らすのは月の光であったり、蝋燭やかがり火など、現代の照明器具に比べれば照度も弱く、その範囲も狭いのだが、日本の芸術文化はそのような陰影の中でこそ最も美しく映えるように作られている。それを注視せずに、歌舞伎や能などの舞台を西洋文明の照明を用いて広範囲を鮮明に見せてしまうのはそれらの美を半減してしまうと谷崎は嘆く。この鉄輪では、谷崎の助言に耳を傾けたかのように舞台照明に蝋燭を用いて見事に幽玄の世界を作り出している。その幽玄の世界で演じられる劇や囃子は真に素晴らしく、近年、歌舞伎や狂言のDVDは巷に出回っていたのだが、能のDVDがなかったので、能のファンにはたまらない一品だと思う。 |
このページの情報は 2006年12月25日16時43分 時点のものです。 |